金子 紗也(Kaneko Saya)
株式会社 TSUNAIDE 代表取締役
1997年、大阪生まれ。大阪府立大学 工学域を卒業後、北海道大学大学院 生命科学院を修了。楽天グループを経て独立し、これまでに 50 社以上の営業代行・営業支援に従事。2026 年 5 月、東京・渋谷に TSUNAIDE を創業。

「派手じゃない仕事を、拾いにいくしかなかった」——金子さんはインタビューの序盤、そう繰り返しました。展示会・AI 開発・営業代行という、聞こえも軽やかではない3軸で会社を立ち上げてまだ2ヶ月。それでも彼女が「これが自分の商売の作法です」と言い切る背景には、100社近い営業現場で見てきた景色と、遡ればもう少し古い記憶があります。

Q1|独立してまだ2ヶ月。なぜ「地味な3軸」で始めたのか

— Q
独立された時、コンサルティングや戦略立案のような、もう少し「かっこいい」路線もあったと思うんです。でも、金子さんが選んだのは展示会と AI と、あとテレアポ。あえて「地味な3軸」で始めた理由は何ですか。
— 金子

独立してまだ2ヶ月の私に、かっこいい仕事を取る資格はないと思ってるんです。コンサルっぽいこと、戦略っぽいこと、それっぽく背伸びをするなんて、絶対しない。今できる一番泥臭いことを、とにかく必死でやる。そう決めて動き出したのが、TSUNAIDE のスタートでした。

秘書をしていた頃、まわりが優秀すぎて、正直しんどかったんですよね。頭の回転も知識量も全部かなわなくて、「私って、何もないな」って毎日思ってました。だから一番地味で、泥臭くて、誰もやりたがらない、手を動かす仕事を片っ端から拾いにいったんです。戦略でもなんでもなくて、それしか自分にできることがなかっただけで。

営業代行から会社を始めたのは、完全にその延長です。あの環境に育ててもらった恩は、成果でしか返せないと思っているので。

「地味」という言葉を、金子さんは自分の弱さのように使いません。むしろ武器のように扱います。派手な路線に手を伸ばしたい気持ちは無いんですか、と重ねて聞くと、少しだけ黙って、こう返してきました。

要領のいい人が5分で終わらせることに、私は平気で1時間かける。昔はずっとコンプレックスだったんですけど、最近、不器用でよかったなと思う瞬間があるんです。1時間もいじってると、5分で通り過ぎる人が気づかない引っかかりが目に入る。ここ変じゃない?っていう、小さな違和感が。それが、たまにいい仕事をする。

Q2|「展示会オシで行きたい」と伺いました。3軸のうち、なぜ展示会に賭けるのか

— Q
先日、社内資料で「展示会オシで行く」と書かれていました。テレアポでも AI 開発でもなく、あえて展示会を主戦場に置くのはなぜですか。
— 金子

展示会って、まだまだ「出展したら終わり」の会社が本当に多いんです。数百万円払って、成果報告が「名刺 300 枚」で終わってる。私、そういうケースを見るたびに、本当にもったいなくて仕方ないんですよね。

その名刺、何件電話しました?何件商談になりました?誰も答えられないなら、来年も同じお金が溶けます。名刺→架電→商談→受注。分解すれば、歩留まりが必ず見えるはずなのに、そこに人を割いてる会社を、私はほとんど見たことがなくて。

だから TSUNAIDE の展示会支援は、正直めちゃくちゃ地味です。会期の前に「よかったらブースに寄ってください」と電話をかけて、当日は、通路の全員に声を張るんじゃなくて、現場を持っていて決裁に絡む一人を選んで深く話し込んで、終わったらその夜のうちに、翌営業日の一本目をリスト化しておく。書き出してみると、誰でもできそうなことしか並んでない。

でも不思議なもので、これを「全部」やり切ってる出展社さんに、私はほとんど会ったことがないんです。1個ずつは簡単なのに、会期の前・中・後を漏れなくやり切るのは、想像以上に難しい。派手さで差がつかない場所ほど、この地味の積み重ねで差がつくと思ってます。

「名刺 300 枚」を成果と呼ぶ空気を、彼女は明確に敵に回します。それは営業として理屈で反論しているというより、100社の現場で「名刺の山が翌年に持ち越されて、また同じ出展料が溶ける」場面を、繰り返し目撃してしまったからでした。

「名刺〇枚獲得!」で盛り上がる打ち上げが、正直、少し怖いんですよね。枚数を追った瞬間、接客は必ず雑になる。うちが現場で数えているのは枚数じゃなくて、「その場で次の日程まで握れた数」。1日立ちっぱなしで足がパンパンになっても、この数字がゼロなら、負けだと思ってます。

Q3|AI で営業メールが量産される時代に、なぜ「電話」を続けるのか

— Q
TSUNAIDE は「AI 開発」も柱に置いていますよね。一方で、金子さん自身は毎日テレアポをかけていると聞きました。AI と電話、両立するんですか。矛盾しないんですか。
— 金子

AI で営業メールが何百通も打てる時代に、私はまだ毎日電話をかけてます。古いって言われても続けているのは、綺麗な文面が量産されるほど、生身の声の価値が上がっていくのを、現場で感じるからなんです。文章は無視できても、声は無視しにくい。断られても、声には温度が残る。テクノロジーが進むほど、泥臭さが希少資源になっていく。だから私は、AI も電話も、両方やります。

「テレアポってもう古いですよね」って、営業代行のご相談で一番よく言われる言葉です。でも100社近くの現場を見てきた実感で言うと、古いのはテレアポじゃなくて、誰にかけるか決めずにかけるテレアポだけなんですよね。リストの精度で成果は倍以上変わる。手法が古いんじゃなくて、設計が雑なだけのケースが本当に多いんです。

だから TSUNAIDE の AI 開発は、いわゆる「AI ツール導入」ではありません。私たちがやるのは、テレアポや展示会で「効いた」設計を、AI で誰でも回せる資産に変換することです。属人で勝った瞬間に、必ず仕組みに落として、AI 化する。これが、御社の事業に「横付け」した私たちが退いた後に、唯一残せる真っ当な仕事だと思っているので。

「AI か、人か」という二択を、金子さんは最初から降ろしません。むしろ、AI がスケールする時代だからこそ、電話 1 本の温度に意味が戻ってくるという逆説を、営業現場で身体的に確信している様子でした。

Q4|5年後の TSUNAIDE を、どう見ているか

— Q
最後に、5年後の TSUNAIDE を、金子さんはどう見ていますか。事業計画的な「売上◯億」ではなくて、「こういう場所になっていたい」という景色で。
— 金子

「大きい案件が取れた」より、「また金子さんにお願いしたい」の一言のほうが、私は何倍もうれしいんですよね。単発で終わる仕事は、正直、勝った気がしない。数字は出てても、それって「私じゃなくてよかった」仕事だから。

だから TSUNAIDE も、大きくなること自体は目標にしていないんです。5年後に、御社のキャリアの中で「あの会社で結ぶ仕事をしたから、今がある」と振り返ってもらえる。取引先の経営者から「また TSUNAIDE に頼みたい」と何年経っても言ってもらえる。そういう場所を作れていたら、それでいいなと思っています。

まだ全然、道の途中です。派手なことは何もできません。でも、お客様のために何でもやり切る覚悟だけは、誰にも負けません。

まだ全然、道の途中だけど……
お客様のために何でもやり切る覚悟だけは、誰にも負けません。

——インタビューを終えたあと、金子さんはすぐに机に戻り、翌週の展示会に向けた事前架電のリストに、鉛筆で温度を書き込み始めました。彼女が「地味」と呼ぶ仕事の、いちばん本当のところが、そこにあるのだと思います。

(取材・構成:TSUNAIDE 編集部 / 撮影:東京・渋谷オフィス)