「こんにちは!よかったらどうぞ!」
ブースの前で声を張り上げていた頃、面白いほど素通りされました。1 日で声はガラガラ。なのに足を止めてくれるのは、数えるほど。
声の大きさの問題ではなかったんです。通路を歩く人は、挨拶に用がない。自分の課題にしか、足を止めない。この単純な事実に気づいてから、私はブース接客で「やること」を増やすのをやめて、「やめること」を決めるようにしました。
この記事では、100 社近くの展示会現場で「やめたら数字が変わった」5 つを、そのまま書きます。派手なテクニックはひとつもありません。でも、これで接客の質は確実に変わります。
「声掛けの成果」の定義
本記事では、声掛けの成果を「名刺の枚数」ではなく「その場でカレンダーに入った次の日程の数」で測ります。この前提が違うと、以下の 5 つは全部逆効果に見えるはずです。
① 挨拶をやめて、課題を言い当てる
「こんにちは」「よかったらどうぞ」は、言った瞬間に素通りされます。挨拶には情報がないからです。
代わりに使うのは、相手の課題を言い当てる一言です。
「〇〇の管理、まだ紙でやられてません?」
言い当てられた人だけが、ぴたっと止まります。全員に届く言葉は要りません。「私のことだ」と思った 1 人が止まればいい。テレアポの最初の 10 秒と、構造はまったく同じです。気合いは大事ですが、気合いの使いどころは声量ではなく、この一言の準備です。
② 説明をやめて、質問をひとつ投げる
展示会で一番売れないのは、実は一番説明がうまい人です。
私も最初はマシンガンのように製品説明をしていました。「AI で異常を検知して自動で通知できて…」。目の前のお客さんの目が、だんだん死んでいくのが分かるのに、怖くて止まれない。
ある日、思い切って説明をやめて、質問をひとつだけ投げてみました。
「今って、何かあった時に、わざわざ現場まで確認しに戻ってません?」
その瞬間、相手が前のめりになりました。「そうなんだよ、夜勤の子がいちいち走るんだ」って、今度は向こうが課題を全部話してくれるんです。
接客でいちばん動くのは、口ではなく耳でした。説明で汗をかくのではなく、相手が 3 秒黙る質問をひとつ用意していく。ブースに立つ前の準備は、これに尽きます。
③ 全員に配るのをやめて、一人を選ぶ
声をかけた数がそのまま成果になると思っていた時期があります。通路の人に片っ端から「見ていってください!」。結果は、さっき書いた通りです。
ある時から、数をかけるのをやめて、選ぶことにしました。見るのは 2 つだけ。
名札と、歩く速度です。
こちらの展示にちらっと目をやって、歩幅がゆるんだ人。名札から現場を持っていて、決裁に絡んでいそうな人。そこにだけ、近づく。声をかける数は前より減りました。でも、選んだ一人に「その管理、今も現場まで行かないと確認できない感じですか?」と切り出せた時の、足の止まり方がまるで違います。
全員に届けようとすると、誰にも届かない。声の大きさではなくて、誰に最初の一言を渡すか。そこを絞ってから、同じ体力で拾える商談が変わりました。
④ 「また今度」をやめて、その場で日程を握る
「予定が分からないので、後でメール送ってください」と言われるたび、昔はそのまま名刺だけもらって「ありがとうございます」で終わっていました。
でも、展示会の後って、出展社から一斉に御礼メールが飛ぶんです。こちらのメールも、必ずその山に埋もれる。返信が来る頃には 2 週間経っていて、相手の熱はとっくに冷めています。
だから今は、その場でこう言います。
「仮でいいので、一番動きやすそうな枠だけ今押さえませんか。ボタン一つで、いつでもキャンセルできますから」
押し売りみたいで、最初は怖かったです。でも熱があるのは間違いなく「ブースの前にいる今」なんですよね。「キャンセルできます」を先に言うのがコツです。相手の逃げ道を確保した上で、日程だけ先に握る。
⑤ 枚数を数えるのをやめて、名刺の裏に一言書く
「名刺〇枚獲得!」で盛り上がる打ち上げが、私は少し怖いんです。枚数を追った瞬間、接客は必ず雑になるからです。とりあえずスキャンして、粗品を渡して、はい次。
枚数の代わりにやっているのが、もらった名刺の裏に、その場で一言書くことです。
「〇〇に困ってた」
この一行があるだけで、後日の電話がまるで変わります。「先日はありがとうございました」から入る初対面同然の電話と、「〇〇でお困りとおっしゃっていた件、ちょっと考えてきました」から入る電話。どちらが商談になるかは、言うまでもありません。
あわせて、温度を 1〜3 で書いておくと、翌日のフォロー優先度がその場で決まります。枚数を集める展示会から、一人を覚える展示会へ。そこで差がつきます。
全員に届けようとすると、誰にも届かない。
声の大きさじゃなくて、誰に最初の一言を渡すか。
「やめる」は、準備がないとできない
挨拶をやめる、説明をやめる、全員をやめる、「また今度」をやめる、枚数をやめる。——5 つとも、当日の気合いでは実行できません。課題を言い当てる一言と、相手が黙る質問を、会期前に準備しているか。声掛けの成果は、ブースに立つ前にほぼ決まっています。
会期前・会期中・会期後の全体設計は、展示会の ROI を立て直す、翌週から動く 15 の設計 にまとめています。あわせてどうぞ。