たとえば、ある製造業の管理部門で「在庫管理をExcelで続けるのは限界がある」という声が上がったとします。候補としてクラウド在庫管理サービスの導入が検討されますが、担当者からは「うちのやり方に合わせられるのか」「自社専用のシステムを作った方が早いのでは」という意見も出てきます。こうした場面で、既存サービスの導入と受託開発のどちらを選ぶべきかを誤ると、余計なコストや手戻りが発生します。
この判断は勢いや好みで決めるものではなく、業務の性質を整理すれば見えてきます。以下、判断の観点を順に見ていきます。
まず業務を「標準的」か「独自」かで分ける
既存サービス(SaaS=インターネット経由で使える既製のソフトウェア)は、多くの企業に共通する業務を効率よく処理できるように設計されています。請求書発行、勤怠管理、簡易な顧客管理などは、業界を問わず似た流れになりやすいため、既存サービスで対応できる可能性が高い領域です。
一方で、自社独自の承認フロー、特殊な計算ルール、複数の社内システムをまたぐ連携が必要な業務は、既存サービスの標準機能では対応しきれないことがあります。その場合は、業務に合わせてカスタマイズできる受託開発が選択肢になります。
「この業務のうち、他社と同じやり方で進めている部分はどこで、自社特有のやり方をしている部分はどこか」を担当者に問いかけてみてください。
この質問に即答できない場合、業務整理がまだ不十分という合図です。業務整理が済んでいないまま開発に進むと、要件が途中で変わり、手戻りが増える原因になります。
Aを選ぶ条件:既存サービスや運用改善で足りる場合
次のような条件がそろう場合は、既存サービスの導入や運用改善を優先する方が現実的です。
業務の大半が他社と共通する標準的な流れである場合、複数の既存サービスを組み合わせれば要件の8割程度をカバーできる場合、社内のルールや承認フローを多少見直すことで既存サービスに合わせられる場合です。既製品は開発費用がかからず、短期間で使い始められる点が利点です。まずは既存サービスの無料トライアルや管理画面を実際に触り、自社の業務フローに当てはめてみることをおすすめします。
Bを選ぶ条件:受託開発が必要な場合
一方で、以下のような条件がある場合は受託開発を検討する価値があります。
既存サービスでは表現できない独自の計算式や承認ルールがある場合、複数の社内システム(基幹システム、在庫管理、会計など)を横断したデータ連携が業務上必須な場合、既存サービスを使うために業務のやり方を大きく変える必要があり、その変更が現場の負担やミスの増加につながりそうな場合です。こうしたケースでは、要件定義(何を作るか、どこまで対応するかを文書で明確にする工程)を丁寧に行うことで、開発後の認識齟齬を防げます。
判断に迷うときの進め方
AかBか即断できない場合は、小さく検証する方法があります。まず既存サービスを試験的に一部の業務だけで使ってみて、どの作業で手が止まるか、どの入力が二度手間になるかを記録します。想定例として、週に数件発生する例外処理に既存サービスが対応できず、毎回Excelに戻って作業しているような状況が続くなら、その部分だけを開発で補う、あるいは業務フロー自体を見直すという判断材料になります。
逆に、試験運用で大きな支障が出なければ、無理に開発に進まず運用の工夫で乗り切れる可能性が高いといえます。日数や試行回数の目安は業務量によって変わるため、自社の繁忙期やデータ量に合わせて検証期間を設定してください。
導入担当者が確認しておきたいチェックリスト
- 対象業務のうち、他社と共通するやり方と自社独自のやり方を書き出したか
- 既存サービスの機能一覧と自社の必須要件を突き合わせたか
- 既存サービス導入時に業務フローをどこまで変更する必要があるか確認したか
- 複数システム間のデータ連携が必須かどうかを整理したか
- 例外処理や特殊なケースの発生頻度を記録したか
- 試験導入や無料トライアルで実際の業務に当てはめて確認したか
- 開発した場合の運用・保守体制を社内で検討したか
既存サービスと受託開発のどちらが適切かは、業務の内容によって変わります。整理の仕方や要件定義の進め方に迷う場合は、お気軽にご相談ください。
