桒谷 一成さん(Kuwatani Kazushige)
inovie株式会社 代表
2026年5月26日創業。AIを使った業務改善・システム開発・マーケティング支援を手がける(支援7割/自社事業3割)。自社事業はフィットネスクラブ向けのデザイン支援SaaS「FitDesign AI」、地方企業向け「AI顧問」など。前職はフィットネスマシンメーカー Johnson Health Tech Japan のカスタマーサービス/マーケティング。

経営者100人インタビュー、今回のゲストは inovie株式会社の桒谷一成さんです。収録は、桒谷さんの「金子さん、カリトル君の広告に出てましたよね?」という一言から始まりました(私が事業部ディレクターを務める『カリトルくん』の動画広告を見つけてくださっていたんです)。創業は2026年5月26日——TSUNAIDEのちょうど翌日で、ほぼ同期の経営者。しかも同じ「AIを事業に使い倒す」側の方なので、聞きたいことが山ほどありました。

— この回のハイライト

収録30分から、要点だけ6つ

  • フィットネスマシンメーカーのCSから、独学でAI開発へ。原点は「趣味でノーコードを触っていたら仕事に紐づいた」
  • デザインができないスタッフでも、AIでSNS投稿・チラシ・広告クリエイティブを作れるSaaS「FitDesign AI」
  • 汎用AIでは届かない「深い業界課題」を、業界のプロと共創する Vertical AI Studio
  • 「10社しか使わないシステム」にこそ、これまで手が届いていなかった
  • これから伸びるのは"自動化"より「人手・コストの制約でできなかったことが、できるようになる」領域
  • 営業メール自動作成ツールを開発中。オープンソース公開を予定

Q1|まず、どんな事業をされているんですか

— 金子
このインタビュー、経営1年目の私が「教わる側」でやらせてもらっています。まず、いま桒谷さんがされている事業から教えてください。
— 桒谷

改めて、inovie株式会社の桒谷と申します。2026年5月26日に立ち上げたばかりの、社長ひとりの法人です。金子さんとちょうど同じ時期ですね。

基本的にはAIを使った業務改善、システム開発、マーケティングのAIシステムを提供している会社で、いまは支援事業が7割、自社事業が3割くらいのリソース配分です。自社事業としては、フィットネスクラブ向けのデザイン支援システムや、地方企業をターゲットにした「AI顧問」サービスを始めています。あとはプロダクトというより取り組みとして、特定領域に特化したAI SaaSやAIエージェントを一緒に作るVertical AI Studioというプロジェクトを動かしています。

創業わずか2ヶ月とは思えないほどサイトも実績も充実していて、正直びっくりしました。ここからは、その2本柱を掘り下げていきます。

Q2|なぜ「フィットネス×AIデザイン」だったんですか

— 金子
自社事業のFitDesign AI、フィットネスに注力したきっかけは何だったんですか?
— 桒谷

私のキャリアの背景として、もともとフィットネスマシンメーカー(Johnson Health Tech Japan)でカスタマーサービスやマーケティングをやっていたんです。ランニングマシンや筋トレマシンを、エニタイムさんはじめ大手クラブさんに納品したり修理したり。6〜7年ほどこの業界にいました。

その中で、フィットネス業界って、失礼な言い方かもしれませんがまだまだDXもAIも進んでいないんですね。だから「AIで何か貢献できないかな」というのがまずありました。しかも、業界にいた頃にご縁のあった、エニタイムさんのマーケなどを支援している優秀な広告会社さんと組めた。「その会社さんが強いマーケ領域 × フィットネス」で何か作れたら、と。

現場でよく聞いたのが、店舗のSNSクリエイティブやチラシを、本来やるべきじゃない人——エリアマネージャーとか、たまたまデザインができるスタッフとか——が、外注予算もない中でCanvaで作っている、という話でした。そこに対して「AIならこれができますよ」と。今日入ったアルバイトの人でも、プロっぽいSNS投稿やチラシが簡単に作れるようになる。そういうSaaSを作った、という感じです。

FitDesign AI は7月にローンチしたばかりで、いまは無料トライアル中。ちょうど先日、展示会に3日間出展してきたんですが、「ピンと来ない」という方もいれば「あ、こういうことね」と刺さる方も。前職からの業界のご縁があるぶん、最初の顧客獲得の解像度は高い状態でスタートできたと思います。

Q3|Vertical AI Studioという発想は、どこから

— 金子
もう一つの柱、Vertical AI Studio。業界のプロと組んでAIを共同開発する仕組み、という理解で合っていますか?
— 桒谷

合っています。いまの世の中、"作ること"のハードルも価値もどんどん下がっていますよね。でも一方で、まだそこに手が及んでいない、リソースがなくてできない方々は、たくさんいる。Xを見ていると「みんな作れるようになってきた」世界観に見えるけれど、Xにいない人、AIエージェントという単語すら浸透していない人は、まだまだ多いんです。

ただ、汎用型のAIエージェントを作るプレイヤーがいる中で、私が同じことをしても価値を届けにくい。だからドメインのエキスパートと組んで、その業界の"この人が使える"レベルの深いプロダクトを作りたい。第一弾がフィットネスのデザイン業務で、これから保育や介護など、業界10年の方と「開発リソースは私が持つので、一緒に事業を立ち上げませんか」と。

「10社しか使わないぞ」というシステムにこそ、
今まで手が届いていなかったと思うんです。

— 桒谷

むしろ「市場が小さい」のが、いいなと思っていて。SaaSをやる会社が、10社に向けたSaaSを作るわけがないんですよ。でも、その10社が本当に欲しいサービスを、いまなら作れる時代になっている。そこにまだ手が及んでいないから、やる価値があると思っています。

Q4|AI開発のスキルは、どうやって身につけたんですか

— 金子
マシンメーカーにいた方が、0から1でAI開発をゴリゴリ伸ばすって、相当なスキルだと思うんです。どうやって身につけたんですか?
— 桒谷

始まりは、マシンメーカーのカスタマーサービス時代です。フィットネスクラブさん向けに、修理動画や資料をまとめたモバイルアプリをノーコードで作ったんですね。シリアルナンバーを入れたら修理動画が見られて、部品購入だけで自分たちで直せる、というアプリ。

それが、ミッションで言われてやったわけじゃなくて、趣味で触っていたら、勤めていた会社で役立ちそうだと紐づいたんです。そこからノーコードをやっていたら、AIが出てきて。「ノーコードだとUIや機能に制限があるけど、AIを使えば、はるかにジャンプできるぞ」という感覚があって、会社のミッションではなく、自分で熱中して。「これなら自分でSaaS作れるじゃん」と思ったのが去年(2025年)9月です。そこで個人事業主として独立して、この1年、ひたすら開発とマーケティングの自動化をやってきました。勉強したというより、手探りでやり続けたという感じですね。

Q5|AIのこれから、どこが伸びると見ていますか

— 金子
AIを間近で見ている桒谷さんから見て、これからどんなサービスが伸びていくと思いますか?
— 桒谷

これは本当に探り探りで、むしろ金子さんに教えていただきたいくらいなんですが……いま強いのは"自動化"の文脈ですよね。今までやっていた業務を自動化する、という。でも私は、「やった方がいいのに、人手やコストの制約でできなかったこと」が、できるようになる領域のほうが、これから伸びると思っています。

「この業界の、この会社の、この業務を自動化しました」という事例が大量に出てきて、それがマイクロSaaSやAIエージェントになっていく。特に、キラキラしたベンチャーが自分たちでやっていく領域とは別に、地方や、農業や、そもそもAIが届いていない業界でそれができると、すごく価値があると思うんです。

Q6|事業がいくつかある中で、どこにフォーカスしますか

— 金子
自社事業がいくつかある中で、特に伸ばしていきたいのはどれですか?
— 桒谷

性格上、いろんなものにすぐ手を出してしまうタイプなんです。「この課題、これで解決できるじゃん」と思いついたらやってしまう。だからこそ、そこはある程度歯止めをかけて、いま立ち上がりそうな事業にフォーカスする。FitDesign AI もそうですが、まずは足元で立ち上がっているものを、一番優先度高く成果まで持っていきたい。

特に Vertical AI Studio はレベニューシェア型でパートナーさんがいる事業なので、金銭的にも、事業としても、ちゃんと価値を戻していきたい。そこは責任を持ってやりきりたいと思っています。

Q7|この数ヶ月で、しんどかった瞬間は

— 金子
同じ2026年5月創業として、ここは本音で伺いたいんですが。しんどかった瞬間や、悩む場面はありましたか?
— 桒谷

正直、まだまだこれからの段階なので、めちゃめちゃしんどいというポイントは、まだないんです。ひとりですし。ただ、これから組織を大きくしていくなら、その分しんどいポイントも出てくるだろうな、と。

あと、これは今というより今後ですが、私がやっていることも、いずれAIが代替していく。その中で"何に価値を出せるのか"は、今からちゃんと考えておかないといけない。AIをかなり使っている自負がある中でも、すごく感じています。

性格的に、課題を見ると「これで解決できるじゃん」とすぐ手を出してしまうタイプなので。そこは歯止めをかけつつ、いま立ち上がりそうな事業にフォーカスして成果を出す、という方針です。

——収録の後半は、すっかり"同期の経営者同士の相談会"になりました。桒谷さんが開発中の営業メール自動作成ツール(サービス資料とリストを入れると、パーソナライズした営業メールを自動生成してGmailに下書きしてくれる。オープンソース公開を予定)の話、私がテレアポで感じている「050番号だと展示会リードに繋がらない」という悩み、それをブラウザ経由で個人の番号として発信する技術の話……。売り込みは一切なしのはずが、お互いの手札を見せ合う時間になって、これはこれで、この企画らしい終わり方だった気がします。

「作ることの価値が下がった時代に、それでも"まだ届いていない現場"を見つけて、そこに深く入っていく」。桒谷さんの視点は、AIを"派手に使う"話ではなく、"誰のために使うか"の話でした。同じ月に生まれた会社として、こんなに背中を押される30分になるとは思っていませんでした。ありがとうございました。

パートナー募集について。
桒谷さんは Vertical AI Studio で、業界のエキスパートとの共創パートナーを募集中とのことです。「この業界の、この課題を解決できたらインパクトがあるのに」というものをご存知の方、地方企業でAI活用に迷っている方は、inovieさんへ。

(収録:2026年7月31日 / 収録時間:約30分 / 収録形式:Google Meet / 構成:TSUNAIDE 編集部)