「社内の情報、全部入れたらすごいAIができますよね」。展示会でブースに立っていると、こう言われることがよくあります。気持ちはわかります。でも、私はいつもこう答えています。
「まず10個の文書だけで試してみませんか。多く入れるほど、実は答えが悪くなることがあるんです」
社内RAGというのは、社内の文書を検索して、その内容をもとにAIが答えを作る仕組みのことです。マニュアルや議事録を読み込ませておけば、AIが「うちの会社のルール」に沿って答えてくれる。便利そうに聞こえますが、最初から全文書を突っ込むと、たいてい失敗します。
文書を増やすほど精度が落ちる、という現実
これは当社のAI開発の現場で何度も見てきたことです。文書が多いと、AIは「似たような内容の中からどれを選ぶか」で迷います。古い議事録と新しい議事録が両方入っていれば、古い方を拾ってしまうこともある。フォーマットがバラバラな文書が混ざっていれば、要点をうまく抜き出せないこともある。
正直、地味な話です。派手にAIを導入した、という見出しにはなりません。でも現場で動くかどうかは、この地味な部分で決まります。当社の支援案件では、試作から本番運用への移行率は82%です(当社支援案件・2026年時点の実績値)。この数字の裏側にあるのは、だいたいが「最初に入れる文書を絞った」ケースです。
判断の分かれ目:入れる文書、入れない文書
では、どの10個を選ぶか。私はいつもこう聞いています。
「この1年で、同じ質問を3回以上受けた資料はどれですか」
ここで出てくるものが、最優先の候補です。逆に言うと、一度も聞かれたことのない資料は、最初の10個には入れません。
判断の分かれ目はこうです。
頻繁に参照される、かつ内容が固まっている文書(例:料金表、よくある質問、標準的な提案テンプレート)は、迷わず最初の10個に入れます。一方で、更新頻度が高い文書(進行中のプロジェクトの議事録や、まだ社内で意見が割れているルール)は、最初は入れません。RAGは「答えが変わりやすいもの」と非常に相性が悪いからです。入れるなら、更新の仕組みを先に決めてからにします。
もうひとつの分かれ目は、文書の書き方です。箇条書きで整理されているか、それとも文章がだらだら続いているか。後者は、最初の10個からは外します。AIが要点を拾いにくいからです。入れる前に、箇条書きに直す一手間をかけた方が、結果的に早いです。
「営業代行」の現場でも同じことが起きている
これは営業代行の現場でも同じです。テレアポのトークスクリプトを何十パターンも用意する会社がありますが、私たちはむしろ絞ります。リスト設計を見直したある案件では、アポ獲得率が0.6%から3.2%まで上がりました(リスト設計を見直した好調案件での実績値)。数を増やしたのではなく、当たる型を絞り込んで磨いた結果です。
RAGの文書も同じ発想です。10個を丁寧に磨いた方が、100個を雑に入れるより結果が出ます。展示会支援の現場でも、商談化の平均は1回あたり20件です(設計込みで支援した場合の当社実績値)。この数字も、当日に配る資料を絞り込んで、温度感別に出し分けているからこそ出せる数字です。多く用意して現場で迷うより、少なく絞って迷わない方が、結局は数字に効きます。
まず10個を選ぶための、具体的な進め方
私が支援先でやっているのは、まず社内の人に3つだけ聞くことです。
「先週、他の人から聞かれて、資料を探すのに時間がかかったことは何ですか」
これを3人に聞くだけで、だいたい10個の候補は出そろいます。派手な分析はいりません。地味に聞いて回るだけです。
当社は50社以上の支援実績がありますが(代表・金子の支援実績、2026年時点)、うまくいったケースはほぼ全て「最初は絞った」ケースです。逆に、最初から全部入れようとした案件は、だいたい途中で止まっています。
実務チェックリスト
- この1年で3回以上聞かれた質問をリストアップする
- 更新頻度が高い文書は最初の10個から外す
- だらだらした文章は箇条書きに直してから入れる
- 社内の3人に「探すのに時間がかかった資料」を聞く
- 10個を入れたら、まず自分たちで10回質問して精度を確認する
- 精度が低い項目だけ、文書を作り直す
- 安定してから、次の10個を追加する
