「AIで何かやりたいんですよね」。この一言を聞くたびに、私は少し身構えます。悪い意味ではありません。ただ、この言葉の後ろに具体的な業務や数字が続かない場合、その相談はほぼ100%途中で止まります。

私は展示会支援の現場で、こういう相談を数えきれないくらい受けてきました。そして正直に言うと、初期の頃の私は「いいですね、何か作りましょう」と乗ってしまい、3ヶ月かけて誰も使わないツールを作ったことがあります。あれは痛い失敗でした。

「AIで何かやりたい」は目的地ではなく出発点

この言葉が出てきた時点で、相手の頭の中には具体的な業務フローがまだ存在していません。だから私がまずやるのは、AIの話を一旦脇に置くことです。

「AIの前に、今その作業、誰が何時間くらいかけてやってます?」

この質問をすると、相手の反応が二つに分かれます。「うーん、正確には分からないです」と止まる人と、「営業が毎週火曜に2時間かけて手入力してます」とすぐ答えられる人です。

ここが最初の分かれ目です。即答できない相談は、まだAIを作る段階ではありません。業務の棚卸しが先です。逆に即答できる相談は、次のステップに進めます。

判断の分かれ目:作る前に「本番で誰が使うか」を聞く

業務が具体的に見えてきたら、次に私が聞くのはこれです。

「これができあがったら、来月から現場の誰が毎日触る想定ですか?」

ここで答えに詰まる相談は、高い確率で試作止まりになります。担当者の名前や部署がすぐ出てこない場合、社内でまだ合意形成ができていないということだからです。

当社支援案件・2026年時点の実績値ですが、AI開発の試作から本番運用への移行率は82%です。この数字を支えているのは技術力より、実は「使う人が最初から決まっているかどうか」です。使う人が曖昧なまま作り始めたプロジェクトは、私の経験上ほぼ止まります。

なので判断基準はこうです。使う人と使う場面が具体的に言えるなら着手する。言えないなら、まず1週間、業務フローを一緒に書き出すところから始める。この順番を飛ばすと、必ず後で戻ってくることになります。

地味ですが、ヒアリングシートより「実際の画面」を見せてもらう

これは本当に泥臭い話ですが、私はヒアリングの時に必ずお願いすることがあります。

「今使ってるExcelとか管理表、画面共有してもらえますか?」

言葉で説明される業務と、実際の画面はだいたい違います。「シンプルに管理してます」と言われた表が、実は色分けと手書きメモだらけだったことも何度もありました。ここを見ずに要件定義を進めると、後から仕様が二転三転します。

展示会支援でも同じことをしています。TSUNAIDEでは商談化の指標を名刺の枚数ではなく「次回商談の日程を確定できた件数」で見ていますが、これも同じ理由です。表面的な数字より、実際に起きていることを見ないと次の一手を間違えます。

断る勇気も、実は相手のためになる

正直に言うと、私は「今はAIを作るタイミングじゃないです」とお伝えすることもあります。業務がまだ固まっていない状態でシステムを作っても、82%という移行率の外側、つまり失敗する側に入るリスクが高いからです。

営業代行でも同じ判断をします。リストの質が悪いままアポ取得を始めても、テレアポのアポ獲得率は上がりません。当社支援案件でリスト設計を見直した好調案件では、獲得率が0.6%から3.2%まで伸びましたが、これも先に地味な設計をやり切ったからです。順番を飛ばして楽をしようとすると、結局遠回りになります。

実務チェックリスト

  • 「AIで何かやりたい」と言われたら業務フローを紙に書き出してもらう
  • 本番運用時の利用者の部署名と担当者名を確認する
  • 実際の管理画面やExcelを画面共有してもらい目で見る
  • 担当者が即答できない相談は着手を1週間保留する
  • 試作の前に「誰が毎日触るか」を文章で確定させる
  • 展示会なら来場者データより次回商談の日程確定件数を記録する
  • 営業リストは配信前に必ずセグメント設計を見直す

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